超音波検査技術

ISSN: 1881-4506
一般社団法人日本超音波検査学会
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5
Japanese Journal of Medical Ultrasound Technology 49(5): 493-497 (2024)
doi:10.11272/jss.424

症例報告Case Report

関節リウマチ患者に合併した両側ベーカー囊腫破裂の1例Bilateral Ruptured Baker’s Cysts in Rheumatoid Arthritis: A Case Report

1東邦大学医療センター佐倉病院臨床生理機能検査部Department of Clinical Physiology Toho University Sakura Medical Center

2東邦大学医療センター佐倉病院放射線科Department of Radiology Toho University Sakura Medical Center

3東邦大学医療センター佐倉病院循環器内科Department of Internal Medicine Toho University Sakura Medical Center

受付日:2023年10月6日Received: October 6, 2023
受理日:2024年7月18日Accepted: July 18, 2024
発行日:2024年10月1日Published: October 1, 2024
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関節リウマチは,膝関節でベーカー囊腫を合併しやすく,まれに破裂することもある.特に両側性の破裂の頻度は低い.ベーカー囊腫破裂は,臨床上,下肢深部静脈血栓症に似た症状を認め,偽性血栓性静脈炎と称される.症例は,70代女性.主訴は,両側下肢腫脹と疼痛.現病歴は,当院受診1週間前から突然の両側下肢腫脹と疼痛が出現し増悪したため,近医の整形外科を受診し下肢深部静脈血栓症が疑われ,当院を紹介受診した.下肢静脈超音波検査では,両側ともに血栓像は認めなかった.しかし,両側膝窩部の腓腹筋内側頭と半膜様筋腱間から発生した内部エコー不均一な低エコー像を認め,下腿へと連続し広がっていたことから両側ベーカー囊腫破裂を疑った.造影CT検査でも同様の所見であり,両側ベーカー囊腫破裂と診断された.消炎鎮痛剤投与と弾性ストッキング着用による保存的療法を行い症状の改善を認めた.関節リウマチに合併した両側ベーカー囊腫破裂はまれであり,臨床症状のみでは下肢深部静脈血栓症との鑑別は困難であることが多く,超音波検査が有用であった.

Bilateral ruptured Baker’s cysts are a rare cause of acute lower extremity swelling accompanied by pain. The differential diagnoses for lower leg swelling with pain include various musculoskeletal and vascular pathologies such as deep venous thrombosis. Ultrasound imaging plays a crucial role in the swift and accurate detection of such diseases. Herein, we report a case of bilateral ruptured Baker’s cysts in a patient with rheumatoid arthritis presenting with bilateral lower extremity swelling and pain. The diagnosis was confirmed via ultrasound, and successful management was achieved with medication.

Key words: ruptured Baker’s cyst; rheumatoid arthritis; bilateral lower leg swelling; ultrasound imaging

1. はじめに

ベーカー囊腫破裂は,関節リウマチ(rheumatoid arthritis: RA)に合併することがあり,臨床所見上,下肢深部静脈血栓症(deep vein thrombus: DVT)に似た症状を認め,偽性血栓性静脈炎と称される1).下肢腫脹や疼痛の精査目的で,下肢静脈超音波検査を依頼されることは多く,ベーカー囊腫破裂とDVTを鑑別することは重要である.今回我々は,急激な両側下肢腫脹と疼痛を主訴とするRAに合併した両側ベーカー囊腫破裂の1例を経験したので報告する.

2. 症例報告

症例:70代女性.

主訴:両側下肢腫脹と疼痛.

既往歴:骨粗鬆症,RA.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:20XX年3月初旬にRAの診断でアザルフィジン内服を開始した.同年3月下旬から両側下肢腫脹と疼痛が出現した.約1か月経過をみていたが増悪したため,近医の整形外科を受診しDVTが疑われ,当院に紹介受診した.

来院時現症:身長150 cm,体重44 kg.血圧135/78 mmHg.心拍数70回/分(整).酸素飽和度97%(室内気).起坐呼吸なし.両側足背動脈の触知可.歩行時,両膝関節痛で歩行困難.左下肢の張りが強く痛い.右下肢周長:大腿部43 cm,腓腹部30 cm,足首21 cm.左下肢周長:大腿部44 cm,腓腹部32 cm,足首22 cm(図1).

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図1 外来受診時の両側下腿写真

両側下腿が腫脹しており,特に左下腿の腫脹が強い.

血液検査所見:C反応性蛋白2.63 mg/dL,D-dimer 7.09 µg/mL,白血球数9260/µLと高値を認めた.

胸部単純X線検査:心胸郭比は46%.異常所見なし.

経胸壁心エコー図検査:左室駆出率は68%と収縮能は保たれていた.軽度の三尖弁逆流を認めた(三尖弁逆流最大圧較差は23 mmHg).心室中隔の扁平化や右心系拡大は認めなかった.

下肢静脈超音波検査:両側ともに血栓像は認めなかった.両側膝窩から下腿の筋層周囲に広がる不整形で境界明瞭,内部エコー不均一な低エコー像を認めた(大きさ 前後径×横径×長径:右側19×23×43 mm,左側19×24×69 mm).両側ともに内部エコー性状は同程度の所見であり,内部に血流シグナルは認めなかった.両側下腿の低エコー像は,膝窩部まで連続しており,腓腹筋内側頭と半膜様筋腱間から発生していた.左側優位の下腿皮下浮腫を認めた(図2).

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図2 下肢静脈超音波検査

A:右膝窩部短軸断面像 B:左膝窩部短軸断面像 C:右下腿長軸断面像(パノラマ画像) D:左下腿長軸断面像(パノラマ画像) 両側膝窩部の腓腹筋内側頭(A,B:黄色丸印)と半膜様筋腱間(A,B:白丸印)から内部エコー不均一な低エコー像を認め,下腿へと連続していた(C,D:白矢頭).

下肢造影CT検査:両側ともに血栓は認めなかった.両側膝窩部の腓腹筋内側頭と半膜様筋腱間から下腿へと連続する液体貯留を認めた(図3).

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図3 下肢造影CT検査

A:右下肢造影CT矢状断再構成像 B:右下肢造影CT横断像(膝窩部レベル) C:左下肢造影CT横断像(膝窩部レベル) D:左下肢造影CT矢状断再構成像 両側膝窩部の腓腹筋内側頭(B,C:黄色丸印)と半膜様筋腱間(B,C:白丸印)から液体貯留を認め(B,C:白矢頭),下腿へと連続していた(A,D:白矢頭).

経過:超音波検査とCT検査からベーカー囊腫破裂と診断し,消炎鎮痛剤投与と弾性ストッキング着用による保存的治療を行い症状の改善が得られた.

3. 考察

ベーカー囊腫は,腓腹筋内側頭と半膜様筋腱間の滑液包に炎症を生じ腫大したものであり,変形性膝関節症やRAに合併することが多い2).ベーカー囊腫破裂により筋表,筋間に内容物の流入を認め,小血管が破綻して出血を伴う.また,下肢腫脹や疼痛などの症状が急激に出現し,炎症反応も上昇する.この症状は,DVTに類似しており偽性血栓性静脈炎と称される1)

ベーカー囊腫破裂の頻度は,Langsfeldら3)の報告によると,超音波検査を施行した3,072例中95例の3.1%でベーカー囊腫を認め,ベーカー囊腫を認めた95例中10例の10.5%でベーカー囊腫破裂がみられた.また,Satoら4)の報告では,突然の下腿腫脹や痛みで超音波検査を行った106例での検討では,症状を認めた125肢中3肢の2.4%でベーカー囊腫破裂を認めた.両側ベーカー囊腫破裂の頻度に関しての報告はないが,我々の施設で過去5年間(2018年から2022年)での両側ベーカー囊腫破裂の頻度を調べると,DVT精査を目的として超音波検査を施行した3,154例中片側ベーカー囊腫破裂は18例の0.6%,両側ベーカー囊腫破裂は2例の0.06%であった.

RAに合併したベーカー囊腫破裂の報告は散見されるが5,6),片側が多く,本症例のようにRAに合併した両側ベーカー囊腫破裂はまれな症例と思われる.RAにベーカー囊腫破裂が多い理由として,RA加療中に膝関節炎が増悪し,ベーカー囊腫が発症する.関節炎の進行に伴い急激に関節内圧が上昇し,関節包と交通を持った滑液包へ関節液の流入が生じ,ベーカー囊腫が増大し破裂に至ると考えられている5).本症例は,C反応性蛋白や他院で測定した抗環状シトルリン化ペプチド抗体やリウマトイド因子が高値でRAの活動性は高いと思われた.症状や経過等により破裂に至った経緯は不明であるが,その原因として,慢性炎症や座位などの機械的圧迫が最も疑われる.また,Kimらの報告によると7),MRI検査による未破裂ベーカー囊腫の最大横径や容量がベーカー囊腫破裂の予測因子になり,最大横径のカットオフ値を22.2 mmとした場合,ベーカー囊腫破裂の感度は64.4%,特異度は54.9%であった.

未破裂ベーカー囊腫やベーカー囊腫破裂の診断は,臨床所見のほか,超音波検査やCT検査,MRI検査で行われることが多い.超音波検査での未破裂ベーカー囊腫とベーカー囊腫破裂の鑑別は,未破裂の場合,囊腫の辺縁は整であり膝窩部に限局することが多く,内部エコーは液体貯留を反映した無エコー像を呈する.破裂すると囊腫の内容物が下腿に広がるため,辺縁が不整となり内部エコーは充実性部分を伴う不均一な低エコー像を呈する.しかし,未破裂であっても下腿まで広がる巨大な囊腫8)も報告されていることから,両者の鑑別が困難な場合もあり,臨床症状や経過を含め慎重に鑑別する必要がある.本症例の場合,同時期の急激な両側下腿の疼痛発症や超音波検査で得られた下腿筋周囲の低エコー像と疼痛部位が一致していたこと,また,下腿の低エコー像の内部性状に左右差を認めなかったことから未破裂の巨大囊腫とは考えにくく,両側ベーカー囊腫破裂と診断した.

未破裂ベーカー囊腫とDVTとの鑑別は,未破裂の場合ベーカー囊腫は膝窩部に限局することが多く,膝窩部短軸像での膝窩静脈と,腓腹筋内側頭と半膜様筋腱間から発生した未破裂ベーカー囊腫との位置関係を確認できるとDVTとの鑑別は可能と思われる.ベーカー囊腫破裂とDVTとの鑑別は,破裂の場合下腿筋周囲に低エコー像を認めることが多く,膝窩部の腓腹筋内側頭と半膜様筋腱間から発生した低エコー像との連続性を認めた際,ベーカー囊腫破裂の可能性が高い.ベーカー囊腫破裂をDVTと診断し抗凝固療法を行った際,出血症状を悪化させる危険性もあり鑑別は重要である.また,ベーカー囊腫破裂による静脈の圧排によりDVTを発症した症例も報告されている9)ことから,ベーカー囊腫破裂を超音波検査で判断した際は,DVTにも注意する必要があると思われる.

ベーカー囊腫破裂の治療は,安静,患肢挙上,圧迫,囊腫穿刺,消炎鎮痛剤投与などによる保存的治療で改善することが多い.しかし,増大傾向にあるものや,再発を繰り返すものに対しては,外科的な手術(囊腫の摘出術)を要することもある2,10).本症例は,消炎鎮痛剤投与と弾性ストッキング着用の保存的治療で改善がみられた.

下肢腫脹や疼痛はDVTに特徴的なものではなく,本疾患やリンパ浮腫,蜂窩織炎,血栓性静脈炎などさまざまな疾患でも発症するため,それら疾患との鑑別診断に超音波検査は重要な役割を果たす.また,両側下肢腫脹の症状で考慮すべき疾患(心不全,腎疾患の他,RS3PEや自己免疫性甲状腺疾患,好酸球性血管浮腫,低蛋白血症,薬剤性 等々)とこれらの鑑別にも超音波検査は有用である.特にRA患者においては,DVTやベーカー囊腫破裂を念頭に置き,両側下肢静脈を含め慎重に検査を進める必要がある.

4. 結語

RAに合併した両側ベーカー囊腫破裂のまれな1例を経験した.ベーカー囊腫破裂とDVTの鑑別は重要であり,その鑑別に非侵襲的に施行できる超音波検査は診断に有用であった.RA患者の下肢腫脹や疼痛では,本疾患も念頭に置き検査を進める必要があると思われる.

著者全員が,本論文に関わる研究に関して利益相反はありません.

引用文献References

1) Katz RS, Zizic TM, Arnold WP, et al. The pseudothrombophlebitis syndrome. Medicine (Baltimore) 1977; 56(2): 151–164.

2) 松本晴信,山本瑛介,神谷千明ほか.ベーカー囊腫破裂と下肢静脈血栓症の鑑別.静脈学2012; 23: 261–265.

3) Langsfeld M, Matteson B, Johnson W, et al. Baker’s cysts mimicking the symptoms of deep vein thrombosis: diagnosis with venous duplex scanning. J Vasc Surg 1997; 25(4): 658–662.

4) Sato O, Kondoh K, Iyori K, et al. Midcalf ultrasonography for the diagnosis of ruptured Baker’s cysts. Surg Today 2001; 31(5): 410–413.

5) 小浦 卓,高木 徹,横山裕介ほか.外科的摘出を行った関節リウマチ患者における膝窩囊腫破裂の1例.日関病誌2019; 38(2): 155–158.

6) 徳田光章,萩野 浩,豊島良太ほか.慢性関節リウマチ患者に発生した膝窩囊腫破裂の4例.整形外科と災害外科1996; 45(1): 172–176.

7) Kim DK, Lee K-C, Kim JK, et al. Assessment of imaging factors associated with Baker’s cyst rupture on knee MRI. Journal of the Belgian Society of Radiology 2023; 107(1): 77, 1–7.

8) Noelia AG, Antonio PP, Antonio MI, et al. Giant Baker’ cyst. Differential diagnosis of deep vein thrombosis. Reumatol Clin 2015; 11(3): 179–181.

9) Prescott SM, Pearl JE, Tikoff G. “Pseudo-pseudothrombophlebitis”: Ruptured popliteal cyst with deep venous thrombophlebitis. N Engl J Med 1978; 299(21): 1192–1193.

10) 川村恭司,種村雅人,伊藤隆司ほか.下腿血栓性静脈炎を疑ったベイカー囊腫破裂の2例.中部整災誌2009; 52: 693–694.

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