超音波検査技術

ISSN: 1881-4506
一般社団法人日本超音波検査学会
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5
Japanese Journal of Medical Ultrasound Technology 49(5): 482-492 (2024)
doi:10.11272/jss.428

研究Research Paper

左室longitudinal strainにおけるapical sparing判定基準の検討Examining the Criteria for Apical Sparing in Left Ventricular Longitudinal Strain

1獨協医科大学埼玉医療センター超音波センターDokkyo Medical University Saitama Medical Center, Center of Medical Ultrasonics

2獨協医科大学埼玉医療センター循環器内科Dokkyo Medical University Saitama Medical Center, Cardiovascular Medicine

受付日:2023年12月8日Received: December 8, 2023
受理日:2024年7月16日Accepted: July 16, 2024
発行日:2024年10月1日Published: October 1, 2024
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目的:左室longitudinal strain(LS)のapical sparing(AP)は,心アミロイドーシス(CA)を疑う重要な所見である.APの判定はBull’s eyeのパターンで行うが,判定に迷う症例も少なくない.その場合,心尖部と他領域のLS値を比較する必要があり,今回その適切な方法について検討した.

対象と方法:CAが疑われLS解析を行った176例(年齢68±14歳,男性129例).内訳はCAと診断された20例,否定された156例である.基部LSおよび中部LSは各6領域の平均値,心尖部LSは5領域の平均値とし,次の2法でAPを判定した.A法は既報告で一般的に使用されている心尖部LS/(基部LS+中部LS)>1でAPとした.B法は心尖部LSを基部LSで除した値に対してCA陽性に関するcut off値の決定と精度評価を行った.A法,B法の精度を比較した.

結果: B法のROC解析によるAP判定のcut off値は2.0であった.感度,特異度,陽性的中率は,A法:65%(13/20),81% (127/156),31% (13/42).B法:90% (18/20),73% (114/156),30%(18/60)であった.

考察・結語:心エコーの役割はCAの可能性を指摘し,精査につなげることである.CAのスクリーニング検査では感度の高いB法でAPを判定することが適切であると考えられた.

Purpose: The relative apical sparing pattern of longitudinal strain (RASP), as determined by a Bull’s eye map, aids in diagnosing cardiac amyloidosis (CA). Despite the challenges involved in estimation, longitudinal strain (LS) values of the apex and other regions are needed for comparison and estimation. Moreover, quantitative evaluation methods for RASP can be confusing to determine. Therefore, our aim is to investigate the significant evaluation method of RASP in patients with CA.

Methods: This study included 176 cases (mean age: 68±14 years, 129 males) with suspected CA who underwent transthoracic echocardiography and LS analysis. We identified 20 cases with CA and compared the detection sensitivity, specificity, and positive predictive value of A and B methods. Method A calculated the average apical LS divided by the sum of average basal LS and average mid LS. Method B involved the average apical septal LS divided by the average basal septal LS. For Method B, we determined the cutoff value for CA positivity and evaluated its accuracy.

Results: In Method B, the cutoff value for apical sparing by ROC analysis was 2.0. The sensitivity, specificity, and positive predictive value for diagnosing CA were 65%, 81%, and 31% for Method A and 90%, 73%, and 30% for Method B, respectively.

Conclusions: Echocardiography, as the gatekeeper, is crucial for detecting suspected cases of CA with high sensitivity, leading to prompt treatment. Our findings suggests that Method B is a suitable screening test for CA.

Key words: cardiac amyloidosis; left ventricular longitudinal strain; apical sparing pattern

1. 背景

心アミロイドーシスは心筋細胞間質にアミロイド蛋白が沈着し,形態的かつ機能的な異常をきたす疾患である.心アミロイドーシスの病型は,主にAL(Amyloid light chain)アミロイドーシス,遺伝型トランスサイレチン(Amyloid transthyretin related: ATTR)アミロイドーシス,野生型ATTRアミロイドーシスの3タイプに大別される.心アミロイドーシスは希少な疾患と考えられていたが,99mTcピロリン酸シンチグラフィ等の画像診断モダィティの進歩により,野生型ATTRアミロイドーシスと診断される患者は急激に増加しており1),左室駆出率の保たれた心不全(Heart Failure with preserved Ejection Fraction: HFpEF)の約13%に野生型ATTRアミロイドーシスが認められたと報告されている2).生命予後は,病型や進行度によって異なるが,いずれの病型についても有効性を示す特異的治療薬が登場し,心アミロイドーシスに対する生命予後の改善効果が示され,早期発見・早期診断が重要になってきている3~5)

心アミロイドーシスは単一の検査やバイオマーカーで検出することは困難である.そこで,心アミロイドーシスの可能性があることを示す臨床所見または兆候として8項目のred flagsが提示されており6),これらの項目から心アミロイドーシスを疑い診断につなげる方法が提唱されている(表1).red flagsの8項目中4項目が心エコー図検査に由来した項目であり,心エコー図検査は心アミロイドーシス早期発見のゲートキーパーとして重要な役割を果たすと考えられる.

表1 ATTR-CMのred flags
LSによるapical sparingパターン(左室基部のLS低下)
心電図上肥大所見のない左室壁肥厚
左室壁肥厚を有する房室ブロック
房室弁,心房中隔,右室自由壁を含む浸潤性肥厚を示す心エコー所見
細胞外容積分画の異常高値,心筋の異常なnulling timeあるいはびまん性造影遅延によるMRI所見
多発神経症または自律神経症候
両側手根管症候群の既往
持続的なトロポニン値の軽度増加
ATTR: transthyretin amyloid LS: longitudinal strain

red flagsの一つにあげられているapical sparingは2Dスペックルトラッキング法によるストレイン解析から判断される指標である.心アミロイドーシスでは心室基部から障害が始まるため,左室長軸方向のストレイン(longitudinal strain: LS)値は相対的に心尖部が保たれるという特徴的な所見を示すとするものである7)図1).apical sparingの判定方法に,心尖部平均LS値を基部の平均LS値と中部平均LS値の和で除した値が1.0以上をapical sparingとする方法7)と,E波の減衰時間短縮(200 msec未満)かつ心尖部四腔像の心尖部中隔LS値と基部中隔LS値を除した値が2.1以上と中隔だけで計算する方法が提唱されているが8,9),一般的に使用されているのは前者である(図2).両法とも感度と特異度は比較的高いとされているが,判定式で定量評価するよりストレイン値によってカラーコード化したBull’s eye表示による視覚的な定性評価が有用であったという報告もあり10),判定に迷う症例も少なくない.そこで,本研究はapical sparingの適切な判定方法について明らかにすることとした.

Japanese Journal of Medical Ultrasound Technology 49(5): 482-492 (2024)

図1 左室の2Dスペックルトラッキング法によるストレイン解析とBull’s eye表示

心尖部四腔像(A),心尖部二腔像(B),心尖部長軸像(C)の左室longitudinal strainと左室17分割のlongitudinal strainが表示されたBull’s eye表示(D).

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図2 既報告のapical sparingの判定方法

上段の方法は心尖部平均LSを基部平均LSと中部平均LSの和を除した値が1.0以上でapical sparingとする方法.下段は心尖部四腔像の心室中隔の心尖部LSを基部LSで除した値が2.1以上かつ僧帽弁E波減衰時間が200 msec未満でapical sparingとする方法.

2. 対象

当院で2021年1月から2023年3月までに経胸壁心エコー図検査が実施され,心エコー検査時に左室壁肥厚などの心エコー所見から心アミロイドーシスを疑った,あるいは心アミロイドーシスの可能性を否定する必要がありLS解析を実施した176例である.年齢は68±14歳,男性129例,女性47例である.

このうち心アミロイドーシスの精査が施行されたのは176例中37例で,心アミロイドーシス確定例20例(AL型5例,遺伝型ATTR 3例,野生型ATTR 12例),心アミロイドーシス否定例17例であった.なお,心アミロイドーシス精査における診断基準は,99mTc-PYPシンチグラフィ陰性,M蛋白陽性で,病理生検にて組織にアミロイド沈着が認められればALとした.99mTc-PYPシンチグラフィ陽性でM蛋白陰性であればATTRとし,その中でTTR遺伝子に病原性バリアントを認めるものを遺伝型ATTR,それ以外を野生型ATTRとした11)

また,精査が行われなかった139例は基礎疾患,現病歴やこれまでの経過から臨床的に高血圧性心筋症や肥大型心筋症などと診断され,心アミロイドーシスが否定された症例であった.

今回の検討において,描出不良例,心アミロイドーシスの可能性を強く疑ったが精査を拒否した症例,癌などの他疾患の治療が優先され心アミロイドーシス精査が行われなかった症例は対象から除外している.

本研究は当院の倫理委員会による承認(研究番号:第23037)を経て施行した.

3. 方法

対象症例において,経胸壁心エコー図検査で心機能評価および左室LSの評価を行った.心機能評価は傍胸骨長軸像から心室中隔壁厚,左室後壁厚,左室拡張末期径,左室収縮末期径を計測した.左房容積係数は心尖部四腔像および心尖部二腔像からbiplane disk summation法で左房容積を算出し,体表面積で割った値とした.心尖部四腔像および心尖部二腔像からbiplane disk summation法で左室駆出率を算出した.左室流入血流速度波形から拡張早期波(E波)と心房収縮期波(A波)の最大速度を計測し,E波とA波の比をE/Aとした.心室中隔側弁輪部および左室側壁側弁輪部における僧帽弁輪移動速度波形の拡張早期速度のピーク(e′)は心尖部四腔像にて測定した.心室中隔側弁輪部のe′値と左室側壁側弁輪部のe′値を平均し,E波で平均したe′を割った値をE/e′とした.左室LSの解析は,明瞭な心内膜面が描出される心尖部四腔像,心尖部長軸像,心尖部二腔像で評価した.左室局所のLSは17分画したものを用い,心基部LSおよび中部LSは6領域の平均値,心尖部LSは5領域の平均値とした.global longitudinal strain(GLS)は解析装置から算出された値とした.

心アミロイドーシス確定例群を心アミロイドーシス陽性,心アミロイドーシス否定例群と可能性が低い例群を心アミロイドーシス陰性とし,2法でapical sparingを判定した.A法は既報告7)で一般的に使用されている方法で,心尖部平均LS値を心基部平均LS値と中部平均LS値の和で除した値が1以上でapical sparing陽性とした.B法はA法から中部LSを除いた方法で,心尖部平均LS値を心基部平均LS値で割った値とした(図3).B法の判定式から求めた数値からreceiver operating characteristic curve(ROC)解析を行い,心アミロイドーシス陽性に関する至適cut off値の決定と精度評価を行った.A法,B法の心アミロイドーシスの検出感度・特異度・陽性的中率を比較した.

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図3 apical sparingの判定式

A法は心尖部平均LS値を基部平均LS値と中部平均LS値の和で除した値(既報告の方法).B法は心尖部平均LS値を基部平均LS値で割った値.

超音波診断装置はVivid E95(GEヘルスケア・ジャパン社製),探触子は4Vc-D(中心周波数3.5 MHz),M5Sc-D(中心周波数3 MHz)を使用した.LS解析はEcho PAC PC V204(GEヘルスケア・ジャパン社製)を使用した.

統計解析として連続変数を平均±SD,カテゴリ変数は数(%)で表した.心アミロイドーシス確定例群,否定例群および心アミロイドーシスの可能性が低い群の3群で比較を行った.群別比較は,カテゴリ変数はFisherの直接確立検定,連続変数であればKruskal–Wallis検定を行った.心アミロイドーシス陽性群と心アミロイドーシス陰性群のapical sparing計算式の比較をカイ二乗検定で行った.それぞれp<0.05を統計的有意とした.apical sparingの計測値からROC曲線を描き,曲線下面積(area under the curve; AUC)値およびcut-off値を算出した.統計解析はEZR, ver. 1.6112)を使用した.

4. 結果

心アミロイドーシス確定例群,心アミロイドーシス否定例群および心アミロイドーシスの可能性が低い群の臨床的特徴を表2, 3に示す.年齢において心アミロイドーシス確定例群は心アミロイドーシスの否定例群に比べ有意に高値を示した(年齢74.7±0.5歳vs.58.2±7.5歳,p<0.01).経胸壁心エコー図検査では,心室中隔壁厚,左室後壁厚,E/Aにおいて心アミロイドーシス確定例群は心アミロイドーシスの可能性が低い群に比べ有意に高値を示した(心室中隔壁厚15.9±0.2 mm vs.12.5±0.5 mm, p<0.01,左室後壁厚15.3±1.5 mm vs.12.1±1.5 mm, p<0.01, E/A 1.4±0.6 vs.0.9±0.1, p<0.01).また,左室拡張末期径において心アミロイドーシス確定例群は心アミロイドーシスの可能性が低い群に比べ有意に低値を示した(左室拡張末期径43.2±4.0 mm vs.47.0±5.0 mm, p<0.01).左室GLS,中部平均LSにおいて心アミロイドーシス確定例群は心アミロイドーシスの可能性が低い群に比べ有意に低値を示した(GLS 10.5±3.8 vs.13.6±3.5, p<0.01,中部平均LS 9.2±4.3 vs.13.0±3.8, p<0.01).心基部平均LSは3群間に有意差を認めた(心基部平均LS 5.7±3.4 vs.7.5±2.3, 11.0±3.9, p<0.01).

表2 心アミロイドーシス確定例群,心アミロイドーシス否定例群と心アミロイドーシスの可能性が低い例群の比較
CA確定例
(n=20)
CA否定例
(n=17)
CAの可能性が低い例
(n=139)
p値
患者背景
年齢(歳)74.7±0.558.2±7.568.9±4.0<0.01
男性(%)17(85)12(70)100(72)0.47
BMI, kg/m223.6±2.624.3±4.223.1±1.00.62
既往歴
高血圧(%)4(20)5(29)50(35)0.37
糖尿病(%)1(5)1(6)6(4)0.82
心筋梗塞(%)1(5)0(0)9(6)0.84
血液透析(%)0(0)2(11)30(21)0.18
経胸壁心エコー図検査
心室中隔壁厚,mm15.9±1.013.5±0.512.5±1.0<0.01
左室後壁厚,mm15.3±1.513.6±0.112.1±1.5<0.01
左室拡張末期径,mm43.2±4.047.8±2.547.0±5.0<0.01
左室収縮末期径,mm32.2±4.535.4±1.032.0±3.00.13
左室駆出率,%50.9±1.544.3±2053.2±3.50.10
左房容積係数,mL/m247.1±17.044.3±20.539.6±5.00.17
E/A1.4±0.61.2±0.10.9±0.1<0.01
E/e′17.5±3.215.5±6.513.3±3.80.03
大動脈疾患(%)1(5)0(0)26(18)0.06
心囊液貯留(%)6(30)3(18)15(11)0.04
左室GLS, %10.5±3.811.5±2.813.6±3.5<0.01
心尖部平均LS, %16.1±4.016.1±2.917.5±4.20.11
中部平均LS, %9.2±4.310.3±3.413.0±3.8<0.01
心基部平均LS, %5.7±3.47.5±2.311.0±3.9<0.01
心尖部平均LS/心基部平均LS
 +中部平均LS
1.3±0.90.9±0.20.8±0.3<0.01
心尖部平均LS/心基部平均LS5.2±6.72.3±0.61.9±1.3<0.01
mean±SD 
BMI: body mass index, CA:心アミロイドーシス,Dct:減衰時間,E/A:左室流入血流速波形拡張早期波(E波)と心房収縮期波(A波)の比,E/e′:左室流入血流速速波形拡張早期波(E波)と僧帽弁輪移動速度波形(e′)の比,GLS: global longitudinal strain, LS: longitudinal strain
表3 心アミロイドーシス確定例群,心アミロイドーシス否定例群と心アミロイドーシスの可能性が低い例群それぞれの有意差
CA確定例
vs.
CA否定例
CA確定例
vs.
CAの可能性が低い例
CA否定例
vs.
CAの可能性が低い例
年齢**
心室中隔壁厚,mm**
左室後壁厚,mm**
左室拡張末期径,mm**
E/A**
左室GLS, %**
中部平均LS, %**
心基部平均LS, %*****
心尖部平均LS/心基部平均LS******
心尖部平均LS/心基部平均LS+中部平均LS****
*p<0.05 **p<0.01 
CA:心アミロイドーシス,E/A:左室流入血流速波形拡張早期波(E波)と心房収縮期波(A波)の比,GLS: global longitudinal strain, LS: longitudinal strain

A法およびB法のapical sparing計算式の結果を表4に示す.心アミロイドーシス確定例を心アミロイドーシス陽性群,心アミロイドーシス否定例と心アミロイドーシスの可能性が低い例を合わせて心アミロイドーシス陰性群とした.A法,B法ともに心アミロイドーシス陽性群に比べ心アミロイドーシス陰性群では有意に低値を示した(A法1.3±0.9 vs. 0.8±0.2, B法5.2±6.7 vs. 1.9±1.3).

表4 心アミロイドーシス陽性例群,心アミロイドーシス陰性例群分けたapical sparing計算式の結果
計算式CA陽性例
(n=20)
CA陰性例
(n=156)
p値
A法心尖部平均LS/心基部平均LS+中部平均LS1.3±0.90.8±0.2<0.01
B法心尖部平均LS/心基部平均LS5.2±6.71.9±1.3<0.01
mean±SD 
CA:心アミロイドーシス,LS: longitudinal strain

B法による心アミロイドーシス診断のapical sparingを予測するROC曲線を図4に示す.解析した結果AUC値:0.826,至適cut-off値:2.0であった.

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図4 B法のapical sparingの心アミロイドーシス陽性に関するROC曲線

A法およびB法のapical sparingの判定式から心アミロイドーシス診断における感度・特異度・陽性的中率を算出した(表5).A法:感度65%(13/20),特異度81%(127/156),陽性的中率31%(13/42).B法:感度90%(18/20),特異度73%(114/156),陽性的中率30%(18/60)であった.

表5 apical sparing判定式の方法別判定結果および感度・特異度・陽性的中率
CAApical sparingA法B法
確定例(+)1318
(−)72
否定例(+)2942
(−)127114
A法B法
感度65%(40–85)90%(51–91)
特異度81%(74–87)73%(65–80)
陽性的中率31%(17–47)30%(19–43)
( )内95%信頼区間 CA:心アミロイドーシス

症例を提示してA法およびB法の判定結果の推移を示す.70代男性.胃アミロイドーシスと診断され消化器内科で加療されていたが,心不全を発症したため,心エコー図検査を施行した(図5).表6に心エコー図検査の計測項目の経時的変化,図6にLSパターンの経時的変化を示す.200X年11月はA法,B法いずれの方法もapical sparing陰性であった.200X+1年3月はA法の指数に大きな変化がないのに対し,B法では指数が増加した.200X+1年4月でもA法の指数では依然としてapical sparing陰性と判定されたがB法による指数は2.2とapical sparing陽性に変化した.その他の心エコー図検査の項目に有意な変化は示さなかった.その後の精査の結果,AL型心アミロイドーシスと診断が確定されておりA法では明確な変動が認められなかった病期においてB法では指数が漸増し陽性と判定されるに至った症例である.なお,心尖部四腔像の心尖部中隔LS値と基部中隔LS値を除した値が2.1以上かつE波の減衰時間短縮(200 msec未満)を組み合わせる方法ではLS値は200X年11月,200X+1年3月2.1以上であったが,経時的に数値は漸減し,200X+1年4月では2.1を下回り判定に迷う結果となった.

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図5 症例 経胸壁心エコー

傍胸骨左室長軸像(A)心尖部四腔像(B).

表6 症例の心エコー図検査経時的変化(70代男性)
20XX年11月20XX+1年3月20XX+1年4月
apical sparing計算式
A法0.850.830.83
B法1.822.002.23
心尖部四腔像 心尖部LS/基部LS3.12.62.2
経胸壁心エコー図検査
心室中隔壁厚,mm141414
左室後壁厚,mm121314
左室拡張末期径,mm393736
左室収縮末期径,mm211820
左室駆出率,%606461
左房容積係数,mL/m2565953
E/A心房細動の為計測不可
E波Dct, sec184277191
E/e′13.714.715.0
心囊液貯留(−)(−)(−)
左室GLS, %16.216.915.5
心尖部平均LS, %23.422.620.8
中部平均LS, %14.716.013.5
心基部平均LS, %12.811.39.3
Dct:減衰時間,E/A:左室流入血流速波形拡張早期波(E波)と心房収縮期波(A波)の比,E/e′:左室流入血流速速波形拡張早期波(E波)と僧帽弁輪移動速度波形(e′)の比,GLS: global longitudinal strain, LS: longitudinal strain
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図6 症例1 GLSの経時的変化

200X年11月はA法,B法いずれの方法もapical sparing陰性であった.200X+1年3月でA法の変化がないのに対し,B法は2.0であった.200X+1年4月でA法変化ないがB法2.2とapical sparing陽性に変化した.精査の結果,AL型心アミロイドーシスと診断された.

5. 考察

心アミロイドーシスのLSは心室基部から障害され,相対的に心尖部LSが保たれることによりapical sparingという特徴的なLSの障害パターンが認められる.しかしその機序は十分に解明されておらず,アミロイドの蓄積が基部より心尖部に少ないこと,左室流出路における乱流の影響で心基部にアポトーシスとリモデリングが起こりやすいことなどが原因として考えられている13).また,apical sparingは心アミロイドーシスの病型によらず認められると報告されている14)

本研究では,心尖部平均LS値を基部の平均LS値と中部平均LS値の和で除した値が1.0以上をapical sparingとする既報での計算式7)から中部LSを除いた方法として,心尖部平均LS/心基部平均LSをB法とした.apical sparingの判定の際に一般的に使用されているA法との違いは中部LSを除外したところである.心アミロイドーシスによるLSの障害は心基部から心尖部へ進行する性質がある.よって中部LSの計測値を考慮に入れないことにより早期にapical sparingと判定されると推測しこの方法を採用した.

既報ではapical sparingの判定式A法の心尖部平均LS/中部平均LS+心基部平均LSが1以上であることを陽性基準とした場合,感度93%,特異度82%で心アミロイドーシスを他の心疾患と鑑別したと報告されている7).しかし,本研究の対象症例をA法に当てはめた場合,A法は感度65%,特異度81%で,既報に比し感度が低い結果となった.両法の違いとして,既報では心アミロイドーシス,肥大型心筋症,大動脈弁狭窄症を対象としているのに対し,本研究では日常ルーチンで遭遇する広範囲の症例を対象としている点があげられる.これは本研究の結果が日常ルーチン検査においてA法で心アミロイドーシスを検出する感度・特異度に近い値を得られていると考えられる.

一方,B法はA法の中部LSの計測値を考慮に入れない方法(心尖部平均LS/基部平均LS)で,ROC解析により求められた至適cut off値2.0以上をapical sparing陽性とする判定基準を採用した場合,感度90%,特異度73%であり,A法に比べB法で感度が高い結果となった.A法では中部LSを障害部位として計算式に組み込むため,発症早期の症例では陽性となりにくく,病期の進行した症例では陽性となりやすい可能性が考えられた.実際にA法を用いた過去の報告では心アミロイドーシスの進行した症例ほどapical sparingを示す可能性が高いと報告されており15),心筋障害の進行した症例には有効だが,病初期にはapical sparingを偽陰性と判定する可能性がある.B法では中部LSのデータを除外することで病初期の症例の偽陰性が減少し,A法より感度が上昇した可能性が考えられる.心アミロイドーシスをスクリーニング検査で拾い上げるには,apical sparingが陽性になることは重要で,B法を採用することが妥当であると考えられた.

特異度に関してはB法よりA法が高い結果となった.これはB法のapical sparing偽陽性が多いことを示しており,早期の心アミロイドーシスをapical sparing陽性と判定することが可能となったことと引き換えに生じた逆効果と考えられる.しかしここで偽陽性とされた症例の中には,ピロリン酸心筋シンチグラフィ検査をはじめとした各種の画像診断や主治医による臨床経過の総合判断などでは心アミロイドーシスと診断できないごく早期の心アミロイドーシスが含まれている可能性があることに留意する必要がある.以上のことから,B法を用いてapical sparing陽性と判定された症例に対しては,心アミロイドーシスの可能性を念頭においてその後の精査や経過観察を行うように提言することは妥当である.心エコー図検査を心アミロイドーシスのスクリーニング検査に用いる際には,感度の高いB法を採用することが適当であると考えられた.

apical sparingのもう一つの判定方法に,心尖部四腔像の心尖部中隔LS値と基部中隔LS値を除した値が2.1以上かつE波の減衰時間短縮(200 msec未満)を採用すると,感度88%,特異度85%で心アミロイドーシスを他の心疾患と鑑別したと報告されている9).この方法は中隔のみのLS値で判定されていて簡便である.しかし,心アミロイドーシスは心基部からLS値が低下することが知られているが,心基部のどの領域から低下するかは明らかとされていない.よって部分的なLS値で判定するよりも全周でとらえることが妥当であり,B法を採用することが適当であると考えられた.

なお陽性的中率はA法,B法いずれの方法においても30%程度と低い結果となった.Eishaらはapical sparing呈しても心アミロイドーシスと診断されるのは30%程度と報告していて16),本研究も同等であった.本研究では日常ルーチン検査で心アミロイドーシスを確実に拾い上げるためのapical sparingの判定法について検討したが,apical sparingの有無だけで心アミロイドーシスを診断することは現実的ではない.他の心エコー所見やred flagで指摘されたその他の所見を踏まえた上で総合的に判断し,さらなる精査の必要性を判定することが重要である.

本研究の限界として,対象の176例中139例が心アミロイドーシスの可能性が低い例が多く含まれている点がある.これらの症例は心アミロイドーシスの精査が行われておらず,臨床的に可能性が低いと判断された症例で,この群の中に心アミロイドーシス陽性例がいる可能性は否定できない.今後他施設合同研究等の大規模な検証が必要である.

6. 結語

心エコー図検査の役割は心アミロイドーシスの可能性を指摘し,精査と経過観察につなげることである.心アミロイドーシスのスクリーニング検査では感度の高いB法すなわち心尖部平均LSを心基部平均LSで除した方法でapical sparingの判定を行うことが適切であると考えられた.

引用文献References

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