アーチファクトと画像処理技術とのつき合い方(第4回):血管領域
近畿大学奈良病院
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アーチファクトは,人為的または技術的な影響によって発生する人工産物または現象であり,画像を扱う分野では実際には存在しないのに表示される像である.超音波検査におけるアーチファクトは数多くあるが,発生原理は共通でありどれも同じである.ただ,臓器や部位によって観察されるアーチファクトの特徴は異なる.アーチファクトは,媒質の音響インピーダンス(媒質の音速×密度)が大きく異なる場合に起こりやすい,生体内の軟部組織や血液の平均伝搬速度(音速)は,それぞれ1,540 m/s~1,570 m/sであり,超音波装置は,これらの伝搬速度を基準に超音波画像を構築している.一方,空気や骨の音速は,それぞれ約300 m/s,約4,000 m/sと生体内の音速と大きく異なるため,音響インピーダンスに差を生じアーチファクトとなる.血管エコーにおける病変としては,動脈硬化病変や慢性血栓などの器質化病変が原因でアーチファクトとなることが多い.同時にドプラ法においても,ドプラ偏位周波数が不規則で大きく異なる場合にアーチファクトとなる.ここでは,血管領域で遭遇するアーチファクトについて実際の臨床画像を含めて解説する1).
多重反射は超音波ビーム方向(距離方向)に出現する.多重反射とは,反射体から反射した超音波ビームが,プローブ面と反射体との間,もしくは強い反射体間で何度も往復して反射が繰り返される現象で強い反射体で起こりやすい.その結果としてプローブ面と反射体との距離,あるいは強い反射体間と整数倍の距離に相似した像として出現する(図1).例えば,プローブ面と反射体が2往復で表示される場合は実像の2倍の深度で表示されることとなる.さらに強い反射体では反射体内で多重反射が重なって出現することもある(図2).多重反射は,原因となる反射体の後方に出現する場合では徐々に弱い表示となる.特に比較的近位で観察できる血管においては,血管壁や筋膜,筋組織などにより,複数種類の多重反射が出現することとなり原因の同定は難しいことが多い.
A:プローブと反射源の距離をaとするとaの整数倍のところに多重エコーが現れる. B:プローブと反射源の前面までの距離をa,後面までの距離をbとすると(a–b)の整数倍の厚みを持った多重反射が現れる. C:反射源の厚みをbとするとbの整数倍のところに多重反射が現れる. D:反射源の厚みをbとするとbの整数倍のところに多重反射が現れる. E:プローブと反射源の距離をa,反射源の厚みをbとするとa, bの整数倍のところにそれぞれ多重反射が現れる.
ミラーイメージは反射体を境に対照的に出現する.平面の強い反射体が存在すると,それが鏡の役割になって,その前面にある実像とよく似た虚像が反射体を挟んだ対面に対照に出現する.このアーチファクトのことをミラーイメージという(図3).超音波ビームは真っ直ぐ進み戻ってくることを前提として画像を構築しているため,強い反射体で反射した送信超音波信号が,さらに実像に反射され受信超音波として画像を構築することにより,強い反射体を挟んだ虚像として描かれる.血管では血管壁を境に発生することが度々みられる(図4).ミラーイメージは多重反射の一種であり,血管領域では両者が同時に発生することもある.
超音波強度の高い反射体を鏡に対照的な画像として発生する.超音波が強い反射体に反射した方向に反射源があると超音波の進行方向にアーチファクトが現れる.このアーチファクトの形態は反射面に対して対称となる.
音響陰影とは,強い反射体に超音波ビームの大部分が反射し,超音波ビームが反射体を通過しないため,その後方が無エコー帯となることであり,隣合わせた媒質の音響インピーダンスが極端に異なる場合に起こる.骨や石灰化像,ガスなどでは音響陰影となる場合がほとんどである(図5).したがって,組織の位置関係を把握するときなどは,骨の存在が明確であるため臓器(血管)の同定に寄与する.また,日本超音波医学会と日本脳神経超音波学会合同で改訂された「超音波による頸動脈病変の標準的評価法2017」2)の頸動脈プラークの輝度分類において,高輝度プラークの判定基準に“対象構造物と比し高輝度かつ音響陰影を伴うもの”と明記されており,アーチファクトの存在が一つの診断基準となっている.ただし,近年の超音波装置に搭載されている空間コンパウンド機能により,音響陰影は観察されにくくなっている(図6).空間コンパウンド機能とは,多方向からの超音波ビーム(パルスの信号)を加算処理することにより実質像の辺縁のつながりを向上させ,結果的にコントラスト分解能を向上させる機能である.時間分解能は低下するものの,音響陰影は観察されにくくなるため,前述の高輝度プラークの判定基準として評価する場合には注意が必要である.
外側陰影は超音波ビーム方向(距離方向)に出現する.外側陰影とは,辺縁平滑な球状組織において,周囲組織と音響インピーダンスが異なるとき発生する.すなわち囊胞や球状組織など,周囲組織よりも音速が速い場合に外側の超音波ビームの屈折が大きくなり,超音波ビームの入射角が臨界角(90°)を超えるため全反射する現象である(図7).結果として球状組織の外側部の後方は無エコー帯あるいはそれに近い状態となる.血管では短軸断面で発生する(図8).
辺縁平滑な球状組織,すなわち囊胞や球状組織など,周囲組織よりも音速が速い場合に側方の超音波ビームの屈折が大きくなり,超音波ビームの入射角が臨界角(90°)を超えるため全反射する現象で,結果として球状組織の側方部の後方は無エコー帯あるいはそれに近い状態となる.血管では短軸断面で発生する. ↓:超音波ビーム :全反射 :無エコー帯
後方エコー増強は,超音波ビーム方向(距離方向)の後方に出現する.生体内において超音波ビームは,エネルギーの一部は熱エネルギーに変換されるものの,反射と透過により減衰しながら進んでいく.反射が少なく透過性の良い媒体では,そうでないものより減衰が少なく超音波ビームが到達するためクリアに描出される(図9).囊胞や血管など一様の媒体で満たされた状態では減衰が少ないため,その後方ではこの現象が発生する.あたかも,周囲組織よりも明瞭に描出できることが本名称の由来と思われる.血管エコーでは,後方エコー増強の特徴を逆手に取り,伴走する動脈や静脈を対象血管の前面になるようアプローチすることで対象血管内が明瞭に観察されることを経験する(図10).前面となる血管壁の反射が少ない場合においては有用である,
反射が少なく透過性の良い媒体では,そうでないものより減衰が少なく超音波ビームが到達するためクリアに描出される. 囊胞や血管など一様の媒体で満たされた状態では減衰が少なく,その後方でこの現象が発生する. :反射体 ↓:反射体 :反射が少なく透過性の良い媒体 :減衰する超音波ビーム
導管を層流の流体が一定の速度で進む場合,導管断面が急に変化した下流側で,もとの導管断面として流れる層流の外側の一部が剥離し,外側に向かって渦流を作り流体の減速と方向が変化する(図11).断層法で観察される流体剥離のアーチファクトは,音響インピーダンスが異なる流体の境で出現する.多くは,血管内に流速や方向の異なる血流(渦流を含む)が存在した場合に,その境で血流に同期してたなびくひも状(線状)アーチファクトとして観察される3,4)(図12).血流という微少散乱体からの反射であるため,超音波減衰が少なくプローブ周波数が高いほど観察されやすい.日本超音波医学会の医用超音波用語集5)では,“境界層剥離,血流剥離,流れの剥離,これらは同意であり,頸動脈球部や狭窄部の遠位で血管壁に沿った流れが壁から離れる現象である”との記載がある.確かに頸動脈球部のように血管径が急に変化する場合に多くみられるが,末梢動脈や末梢静脈において血管分岐部や合流部などでも経験する.いずれにしても,血流の剥離は血流速度が異なるために生じる.さらに,カラードプラ法においても注意しなければならない,頸動脈球部では剥離部分の外側は低流速の渦流となるため,カラードプラ法では表示されにくくなることが散見される.頸動脈球部で低輝度プラークを疑う場合,カラー表示幅を低く設定して血流の存在を明らかにすることが大切である(図13).
導管を層流の流体が一定の速度で進む場合,導管断面が急に変化した後方で,もとの導管断面として流れる層流の外側の一部が剥離し,外側に向かって渦流を作り流体の減速と方向が変化する. 音響インピーダンスが異なる流体の境で出現するため,空間的に発生する.
クラッタは日本超音波医学会の医用超音波用語集5)では,“エコー信号中の特定成分に注目する際に邪魔になるノイズの一種で,特に強い不要(有害)成分”と記載されている.実際にはカラードプラ法使用時に,断層上で強い反射体(高輝度)の後方に出現することが多い.結石(音響陰影を伴う反射体)や腸管ガスのような強い反射体の後方に不規則でモザイク状のカラードプラ信号として観察される(図14).他領域での類似のもので,twinkling artifactとも表される.反射体で生じた不規則な反射波を,ドプラ方向やドプラ偏位が不規則な反射信号として認識し表示されたものであることから,血管領域では血流の乱流によるものと誤診されやすい(図15).同部位のパルスドプラ波形を記録することで,ドプラ偏位周波数信号が不規則な高周波信号が得られることで鑑別できる.その他,アプローチを変更したり,断層法で詳細に観察し周辺臓器を含めた総合的な判定が大切である.
血管エコーで出現しやすいアーチファクトについて,観察部位や出現条件,鑑別方法などについて記載した(表1).エコー検査全般にいえるが,1段面で判断せず,異なるアプローチで観察することや,Mモードやパルスドプラ法などを鑑別ツールとして用いることも得策である.血管エコーで出現するアーチファクトの特徴を,数多く知っておくことで鑑別はさほど難しくはないと思われる.
1) 日本超音波検査学会:超音波基礎技術テキスト.超音波検査技術 特別号:37(7). 2012
2) 日本超音波医学会 頸動脈超音波診断ガイドライン小委員会:超音波による頸動脈病変の標準的評価法2017. Jpn J Med Ultrasonics. 2017. https://www.jsum.or.jp/committee/diagnostic/pdf/jsum0515_guideline.pdf
3) 鈴木昭広:こんなに役立つpoint of care超音波.メジカルビュー社(東京).2017
4) 工藤陽子.ほか:頸部血管内の血流境界面に見られる膜様エコー.Jpn J Med Ultrasonics Vol. 38 Suppl(2011). S368
5) 日本超音波医学会:医用超音波用語集.https://www.jsum.or.jp/terminologies
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