日常診療で遭遇する成人先天性疾患: 後編~シャントを有する単純性心疾患ASD,VSD,PDA~
北里大学医学部循環器内科学
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成人期に至った先天性心疾患は成人先天性心疾患(ACHD: Adult Congenital Heart Disease)と呼ばれ,様々な課題を抱える新しい分野として注目を浴びている.複雑性心疾患や重症例を含む多種多様なACHD患者は増加の一途を辿り,心エコー図検査に携わる限り,ACHDはもはや避けては通れない疾患となった.
前編ではACHDの特性や心エコー図検査におけるコツを中心に概説した.また,最も押さえるべき先天性心疾患(CHD: Congenital Heart Disease)として,大動脈二尖弁(BAV: bicuspid aortic valve)について述べた.後編では,遭遇頻度と臨床的重要性の高い心房中隔欠損症(ASD: atrial septal defect),心室中隔欠損症(VSD: ventricular septal defect),動脈管開存症(PDA: patent ductus arteriosus)について,心エコー図検査の臨床的意義と診るべきポイントに絞って概説する.
ASD, VSD, PDAは,シャントを有する比較的発生頻度の高いCHDである.発生段階の何らかの異常により,本来は存在しない心腔や血管間の交通が生じ,多くは左右短絡を呈する.この構造異常とシャント血流の程度によって,様々な病態を生じ得る.これらの疾患はCHDの中でもシンプルな構造異常であるが,肺高血圧やチアノーゼなどを合併すれば重症となり,診療の難易度も各段に上がる.また,より複雑なCHDの一病態(ファロー四徴症のVSDなど)や,他のCHDとの合併(Ebstein病のASDなど)として存在することもあり,診断時には,他の構造異常の有無も意識して検索する.
CHDは構造異常への直接的な介入が治療選択肢となり得ることが強みとなる.内科的治療では得られない絶大な効果が期待できる反面,術中・術後の合併症リスクを伴うことを忘れてはならない.当然のことながら,治療効果が期待できる場合にのみ適応となる.閉鎖の適応は,“悪影響を及ぼすか”の視点で考える.
ASDは心房間,VSDは心室間,PDAは大動脈と肺動脈間に短絡がある.短絡を介して左側から右側へ余計な血液が流れ込み容量負荷を生じるが,流入先とシャント血流の生じる心周期によって影響を受ける部位や肺血管障害の程度が異なる(表1).
疾患名 | 主にシャント血流が生じる 心周期 | シャント血流により 容量負荷がかかる心腔 | 物理的な肺血管障害の程度 |
---|---|---|---|
ASD | 拡張期 | 右室 | 弱い |
VSD | 収縮期 | 左房左室 | 強い |
PDA | 全心周期(収縮期>拡張期) | 左房左室 | 強い |
ASDでは,心房中隔の欠損孔を介し,拡張期メインに左房から右房へシャント血流が生じる.拡張期には三尖弁は開放しており,そのまま右室に流入し,一旦右室でシャント血流を受け止めるため,右室の容量負荷となる.その他の原因がない右室拡大を認めれば,影響を及ぼす欠損孔であると考えられる.一方VSDでは,収縮期メインに心室中隔の欠損孔を介し左右シャントを生じるが,同時に右室も収縮しており,シャント血流はそのまま肺動脈を通過し,左房で受け止める.そのため,VSDでは左房左室の容量負荷となる.PDAでは動脈管を介して連続的な左右シャントを生じるが,VSDと同様に左房左室で受け止めるため左心系の容量負荷をきたす.シャント血流が原因で心腔拡大を呈している,つまりASDでは右室,VSDとPDAでは左室が拡大し,危惧する肺高血圧がない場合には,無症状でも閉鎖の適応となる1~3).
シャント血流による肺血流量の増加はPHをきたす.加えて,長期にわたる高拍出の持続,および肺血管への直接的な傷害によって血管リモデリングが進行し,肺血管抵抗(PVR: pulmonary vascular resistance)の上昇を伴う肺動脈性肺高血圧に進展する.ASDではシャント血流を右室で一旦受け止めるのに対し,VSDとPDAではシャント血流が直接肺血管を物理的に傷害し,PVRの上昇を伴うより高度なPHを早期にきたしやすい.高拍出によるPHはシャント血流をくい止めることで改善が期待できるが,PVRが上昇している場合は肺血管自体の器質的機能的異常が残存し,閉鎖術だけでは改善が見込めない場合もある.さらに,不可逆的な肺血管床の傷害による高度なPHで,右左シャントを呈している場合(Eisenmenger化)には,閉鎖によってむしろ病態が悪化するため,閉鎖術は禁忌となる1~3).このように,PHの有無と程度,シャントの方向は,閉鎖術の可否を判断する上で必須の情報であり,心エコー図検査で評価すべき項目である.
PHの診断と評価は,原則として心臓カテーテル検査で行う.心エコー図検査での肺動脈圧の推定値は,時にカテーテル検査による実測値と乖離がみられ,また,種々の推定式はあるものの4),PVRの安定した正確な数値を得るのも難しい.心エコー図検査では,実測値により近い推定値を算出する努力と工夫は必要だが,検査の限界を熟知し,数値だけでなく,その他のPHを示唆する所見5)とあわせ,総合的にPHの有無を判断することがより重要となる.患者負担の大きい侵襲的な精査は,主治医も躊躇する.検査に踏み切る根拠として,心エコー図所見は重要な鍵を握る.
Qp/Qsは,Qs(体血流量)に対し,Qp(肺血流量)がどれだけ増えているかを比として数値化したもので,シャント量の多寡を知る指標として有用である.一般的に“Qp/Qs>1.5”は明らかに有意な肺血流増加を示唆する所見として,広く認識されてきた.しかし,心臓カテーテル検査で求めても値の正確性に欠け,現在の診療においては絶対的指標ではなく,総合的評価の中での参考所見にとどめられている.
心エコー図検査では,Qp/Qsを各心室の流出路から求められる1回拍出量(SV: stroke volume)の比で代用している.すなわち,Qp/Qs=右室流出路(RVOT)のSV/左室流出路(LVOT)のSVで算出される(図1).SVは,π(流出路径/2)2×VTI(速度時間積分値)であり,各流出路の径を収縮中期に計測し,その計測部を通過するパルスドプラ法で描出した血流速度波形をトレースしVTIを求めれば,超音波装置内で自動的にQp/Qsが算出される.なお,PDAは,ASDとVSDとは算出法が異なる.シャント部分が流出路の先の大血管になるため,右室流出路と左室流出路のSVを逆にして比を求める(図2A).また,特殊な例として冠動脈瘻がある.冠動脈からのシャントの流入先として大半を占める右室や右房の場合には,Qp/Qsは心エコー図検査では求められない(図2B).
心内シャントであるASDとVSDでは,右と左の流出路を通過する血流量の比がQp/Qsを反映する.RVOTを通過する血流量はQp, 肺血流をLVOTを通過する血流量はQsを反映し,Qp/Qsは各部位から算出した1回拍出量(SV: stroke volume)の比から求められる.SVは収縮中期の流出路径と同部を通過する血流速度波形のVTI(Velocity Time Integral, 速度時間積分値)を計測することで求めることができる.
A:PDAでは左室流出路を越えた大動脈から肺動脈への左右シャントであり,左室流出路を通過する血流量がQpを反映し,右室流出路を通過する血流量はQsを反映する.ASDやVSDとは逆側の血流を反映し,分子と分母が逆になる.B:冠動脈瘻で右室や右房に流入する場合では,左室流出路を越えた部位からの右心へのシャントであり,流出路を通過する血流はどちらもQpを反映する.しかし,Qsを反映する血流は,冠動脈起始部以降の大動脈を通過する血流となるので,心エコー図検査でQp/Qsを求めるのは困難である.なお,左心に流入する場合には,PDAと同様に算出可能である.
レポート作成時の注意点として,Qp/Qsの数値の記載は,測定の正確さに自信があるときのみにとどめる.Qp/Qsは比較的容易に数値は出せるが,右室流出路や血流速度波形を明瞭かつ正確に描出することが難しい場合もあり,誤差が生じやすい.このような限界を十分理解して心エコー図レポートを解釈し,適切な方針を導ける主治医は多くはない.“Qp/Qs>1.5”は有意なシャントを示唆する所見として一般内科医に浸透しており,それ故にQp/Qsを妄信しがちである.逆にQp/Qs<1.5であれば,精査だけでなく,時にfollow upさえ不要な単純性疾患としてみなされ放置される危険もはらんでいる.種々の条件のために算出した数値の信頼性が低そうであれば,心エコー図レポートにはあえてQp/Qsの数値は記載せず,影響を及ぼすシャントか否かを判断できる情報を明示する.容量負荷による心腔拡大とPH所見の有無,シャントの方向,欠損孔の大きさ,血行動態指標などが,その後の方針決定に有用である.
一方で,信頼性の高いQp/Qsは有用である.形態的血行動態的異常を呈するにもかかわらず,明らかなシャントが検出されない場合,Qp/Qsの高値は何らかのシャントの存在を示唆し,経食道心エコー図検査(TEE)やCT検査,心臓カテーテル検査などの次なる精査に踏み切ることができる.また,PDAではむしろカテーテル検査で正確に測定するのが難しいという.総合的判断の中でもQp/Qsの値は心強い根拠となり,是非とも心エコー図検査で正確に算出できるようにしたい.シャントと半月弁逆流のない症例でQp/Qsを1.0に算出できるように,普段からトレーニングを行うことがスキル向上に役立つ.
IEはシャント疾患の致死的合併症である.心エコー図検査では,いかにIEを疑って診断し早期に治療に導くかが重要である.
VSDとPDAでは高速のシャント血流が心血管の内膜傷害をきたし,IEのリスクとなる.成人のPDAでは,PDA自体が未診断のこともあり,不明熱の精査依頼時にはPDAの存在も疑って肺動脈内も詳細に観察する.ASDのシャント血流は低速であり,基本的にはIEのリスクにはならないとされている6).しかし,ASDに肺動脈弁(PV: pulmonary valve)の異常を伴うことがあり,そのような場合にはIEをきたし得る7).また,ASDのカテーテル治療後,ディスクの内膜化が完了するまではIEのハイリスクとなる.しかし,留置後遠隔期に発症する遅発性IE症例が散見され,術中所見ではディスクの内膜化が不完全であったことが報告されている8).さらにディスクに付着した疣腫はTEEでのみ検出され,経胸壁心エコー図検査(TTE)では検出できなかったという9).このような背景の症例では,たとえTTEで所見がなくても,“IEは否定”とせず,臨床的に怪しければTEEを薦める旨,レポートに追記いただきたい.
ASDは,BAVを除き,成人期に初めて診断される最も多いCHDである.加齢により病態が悪化すること,カテーテル治療が可能であること,PHや心不全の原因となり得ることから,重症化前の早期に診断し適切なタイミングで治療を行うべき疾患として臨床的意義は大きい.
心房中隔の欠損孔と同部を通過するシャント血流を検出することにより診断するが,ルーチンの基本断層像だけでは気づきにくい場合もある.心房中隔が描出される短軸像で意識的にカラードプラを入れたり,心尖部四腔像を傍胸骨像寄りに傾けて心房中隔が超音波ビームと平行にならないようにすることで,欠損孔の辺縁やシャント血流が明瞭に描出できるようになる(図3).また,心窩部アプローチではシャント血流がビーム方向となり,パルスドプラ波形も描出しやすい.
A:傍胸骨左縁短軸像大動脈弁レベル(拡張期,カラードプラ) B:傍胸骨四腔像(拡張期,カラードプラ) 拡張期に心房中隔の欠損孔を通過するシャント血流が描出される.左房から右房へ流入した血流はそのまま右室に流入している.Bでは心房中隔の欠損孔の辺縁が明瞭に描出される(矢印)RA: right atrium, LA: left atrium, RV: right ventricle
ASDでは右心の容量負荷および肺血流増加をきたす.右室拡大,肺動脈拡大をきたし,二次的に三尖弁逆流(TR)や右房拡大による心房細動を合併する.PHはこれらをさらに助長し,右心不全の原因となる.
診断の契機は様々であるが,右室拡大と合併病態を反映した症状や検査所見に注目する.すなわち,a.心不全や心房細動症例で右室拡大を伴う場合,b.不完全房室ブロック(ICRBBB)や胸部X線での心拡大の指摘,c.原因不明のPHや右心拡大などである.一度心エコー図検査を受けていても,診断に至らず紹介となるケースも少なくない.特に進行例でsevere TRを合併すれば,右心拡大の説明がつき,ASDを見逃しやすい.右心拡大+TRでは,常にASDの可能性を念頭に置きたい.なお,ICRBBBは健診で要精査とならない軽微な所見だがASDでよくみられる心電図異常であり,一度は心エコー図検査で確認をしたい.
ASDには病型分類があり,卵円窩に欠損孔がある二次孔型が約80%を占める3).15%を占める一次孔型は,心内膜床の癒合不全により発生し,房室中隔欠損症の不完全型に相当する.房室弁の直上に欠損孔が存在し,中隔側の房室弁付着部位の高さが同じで,その多くに特有の房室弁の異常を伴う.静脈洞型は上大静脈(上位型)や下大静脈(下位型)の流入部の欠損で5%程度を占めるが,そのほとんどが上位型であり,部分肺静脈還流異常(主に右上肺静脈)を伴うことが多い.冠静脈洞型は冠静脈洞と左房の交通がある稀な病型で,unroofed coronary sinusとも呼ばれ,左上大静脈遺残を伴うことがある.
静脈洞型と冠静脈洞型は,ルーチン検査のTTEだけでは検出しにくく,右胸壁アプローチや心窩部アプローチでの念入りな描出を要する.描出不良で,説明できない右心拡大がある場合には,積極的にTEEやCT検査を検討する(図4).信頼のおけるQp/Qsの高値は,シャントの存在を確信し,次の精査に進む後押しとなる.
ASDの診断に至ったら,閉鎖の適否と閉鎖法の選択に必要な情報を得る.
血行動態的に影響のあるシャントか,安全に閉鎖できるかを知る上で,右室拡大の有無,PHの程度,シャントの方向が肝要である.
奇異性脳塞栓症や体位変換性低酸素血症(Platypnea-orthodeoxia syndrome)など,欠損孔が小さくても右左シャントを生じて悪影響を及ぼす場合も閉鎖適応となる.右左シャントの証明には,マイクロバブルテストが有用である.
カテーテル治療の対象は,二次孔型のみである.そのため,病型分類を要す.“解剖学的適応”は,38 mm未満の二次孔かつ大動脈周囲縁を除く欠損孔辺縁(rim)が5 mm以上である場合だが,詳細な評価はTEEでするので,TTEでは明らかな適応外を指摘できるとよい.
手術を要する他の構造異常があれば外科的閉鎖術が優先されるため,TTEで手術適応となる弁機能障害の有無を評価する.ただし,TRはASD閉鎖に改善する可能性があり10),弁輪径,右房サイズ,心房細動の合併,三尖弁の器質的異常の有無などを考慮して,総合的に判断する.
VSDは全CHDの約30%を占め,BAVを除き最も頻度が高い.未修復例,術後症例ともにバリエーションが豊富で,奥深い疾患である11).ここでは,成人期のフォローアップのポイントについてエッセンスのみを述べる.
VSDでは明瞭な収縮期雑音が聴取され,新生児期に診断されることも多い.中等度以上の欠損孔では,PHや左心容量負荷による左心不全を呈し,その多くは乳児期に心内修復術が実施される.一方,臨床症状とPHを伴わない,大動脈弁輪の1/3以下の小欠損孔では,自然閉鎖を期待し経過観察される.
成人期に出会うVSDは,術後症例か未修復の小欠損例が多いが,小児期に手術不能と判断され大欠損で未修復のまま成人期に至る重症例も存在する.
VSDは心室中隔の欠損孔の部位により分類される.分類法は多岐にわたるが(表2),実臨床では,膜様部,流出部(漏斗部),流入部,筋性部と大まかにとらえ,各部位の欠損孔が病態に及ぼす特徴を理解することが重要である.
VSDの分類 | ||||
---|---|---|---|---|
実臨床で最低限必要 な分類 | Soto分類 | Kirklin 分類 | 東京女子 医大心研分類 | ICD-1112,13),※4 |
●流出部欠損もしく は漏斗部欠損 | Outlet | I型 | Outlet VSD | |
・肺動脈弁下欠損 | Subarterior infundibular | I型 | •Outlet VSD without malalignment (Outlet muscular VSD without malalignment, Doubly committed juxtaarterial VSD without malalignment) •Outlet VSD with anteriorly malaligned outlet septum (Outlet muscular VSD with anteriorly malaligned outlet septum, Outlet perimembranous VSD with anteriorly malaligned outlet septum, Doubly committed juxtaarterial VSD with anteriorly malaligned fibrous outlet septum) •Outlet VSD with posteriorly malaligned outlet septum (Outlet muscular VSD with posteriorly malaligned outlet septum, Outlet perimembranous VSD with posteriorly malaligned outlet septum, Doubly committed juxtaarterial VSD with posteriorly malaligned fibrous outlet septum) | |
・漏斗部筋性部欠損 ・(漏斗部中隔 全欠損)※2 | Muscular(infundibular) | (II型※1) | ||
●膜様部欠損※3 | Perimembranous | II型 | III型 | Perimembranous central VSD |
●筋性部(肉柱部) 欠損 | Muscular(central, apical) | IV型 | V型 | Trabecular muscular VSD (midseptal, apical, postero-inferior, anterosuperior, multiple) |
●流入部欠損 | Inlet | III型 | IV型 | Inlet VSD without a common atrioventricular junction (Inlet perimembranous VSD without atrioventricular septal malalignment, Inlet perimembranous VSD with atrioventricular septal malalignment, Inlet muscularVSD) |
※1 漏斗部筋性部欠損について,Soto分類では漏斗部にある筋性部欠損を意味し欠損孔の全周囲が筋組織であるのに対し,東京女子医大心研分類では欠損孔が肺動脈弁に接していなければII型となり,筋組織に囲まれていることを必須条件とせず,大動脈弁に接している場合も含む.※2 漏斗部中隔全欠損は,膜様部から漏斗部全体にわたる大きな欠損で小児期に手術を施行することがほとんどである.※3 厳密には,membranousとperimembranousは異なる.membranousの周囲がperimembranousであるが,menbranousを中心として広がる欠損孔をperimembranous型とし,当院では膜様部欠損としている.※4 国際疾病分類ICD-11は,世界的な統一に向けた新しい分類として提唱されている. |
膜様部が最多で半数,流出部(漏斗部)はアジア人に多く約30%を占める.膜様部中隔は,中隔帯の後方脚と三尖弁輪の間に位置し,欠損孔は三尖弁と大動脈弁に近接する.流出部(漏斗部)欠損は国際疾病分類ICD-1112)では細かく分類されているが,おおよそ肺動脈弁下の中隔欠損と理解すればよい.基本的に大動脈弁下でもあり,加速したシャント血流に吸い込まれ,多くは右冠尖が欠損孔にはまりこみ,大動脈弁逸脱を高率に合併する.小欠損でも小児期に手術を実施していることも多いが,最適な手術時期は定まっておらず,未修復のまま成人期に至る例もみられる.なお,大動脈弁逸脱は,膜様部欠損でもみられる.膜様部中隔は大動脈弁右冠尖と無冠尖に囲まれた弁下部分にあり,右冠尖のみならず無冠尖にもみられ,時に両尖とも逸脱する13).整列異常型の膜様部欠損で合併しやすい.
遺残症と続発症は,欠損孔の部位や術式によって異なり,術後症例でもこれらの情報を事前に得られるとよい.術後共通の留意点は,残存シャントの有無,PH,弁逆流である.術前にPVR値が高値であると,成人期にPHを発症する可能性がある13).
右房切開にて三尖弁越しにパッチ閉鎖を行う.刺激伝導系を避けて三尖弁輪に糸をかける.そのため,三尖弁の変形をきたしTRが術後新規に出現することがある.術中に刺激伝導系を傷害すれば,完全房室ブロックとなる.
肺動脈弁下の欠損孔閉鎖は,肺動脈を切開して肺動脈弁越しに行う.欠損孔の上縁は一部肺動脈弁輪に糸をかけ,肺動脈弁輪や肺動脈弁に異常をきたすことがある.弁輪の成長障害や弁の変形から,肺動脈狭窄や肺動脈弁逆流(PR)を合併することがあり,肺動脈弁周囲や右心にも注目し評価する.
逸脱による大動脈弁逆流(AR)合併例でも,大動脈弁の変性が軽度であればパッチ閉鎖のみ施行されるが,術後にARが残存,増悪することがある.大動脈弁形成術後でも,長期的に経年変化をきたし再度ARが進行してくる場合もある.
適応のポイントは,左心系の容量負荷とPH,大動脈弁逆流(AR)とIEの既往である2).欠損孔閉鎖のClass Iには,肺血流増加(Qp/Qs>1.5)に伴う左心系の容量負荷を認め,高度なPHがない場合があげられている.VSDが原因となる進行性のARはClass IIa, IEの既往はClass IIbの推奨となっている.PHの正確な評価は重要で,右左シャントとなり体血管の2/3以上の肺動脈収縮期圧やPVRを呈する高度なPH例ではClass IIIと禁忌であるが,左右シャントを保っている中等度以上のPHに対してはClass IIbである.現在では,効果的なPH治療薬が複数あり,薬物的にPVRを下げた後,欠損孔閉鎖を試みるtreat and repairも選択肢にあがる.不可逆的なEisenmenger症候群との鑑別を,慎重に行わなければならない.
VSDと併存しやすいCHDは,右室二腔症,ASD,PDA,大動脈縮窄症,肺動脈弁狭窄などである.VSD以外の構造異常への介入により,術後遠隔期の続発症をひきおこし,病態を悪化させることがある.可能な限り手術記録を確認することが望ましい.また,VSDに合併し得る特有な病態として,AR, Valsalva洞動脈瘤および破裂,左室右房交通症,膜様部中隔瘤,右室流出路狭窄,IEがあげられる.成人期には,VSDのみならず,患者背景から予測されるこれらの合併病態を念頭に置いた心エコー図評価が求められる.
動脈管は胎児循環に必要な下行大動脈と肺動脈をつなぐ心外短絡であり,正常新生児では機能的には48時間以内,器質的には生後2~3週で閉鎖する13).生後も開存状態が持続するのがPDAであり,全CHDの5~10%を占める.下行大動脈から肺動脈への連続的なシャント血流により,肺血流の増加と左心容量負荷をきたし,左心不全や肺高血圧をひきおこす.
高度のPH合併例と細く心雑音のない例を除き,小児期に診断されたPDAのほとんどは左心系の容量負荷の解除,感染性心内膜・血管内膜炎の予防を目的として治療適応となり13),外科手術やカテーテル治療が実施されている.術後経過は良好で,PDA単独でPHや遺残短絡がなければ,成人期に問題となることは少なく,外科術後の経過観察も不要とされる14).
遺残短絡は,どこまでを再介入すべきか明確ではないが14),IEのリスクにはなるため,患者教育とともに,不明熱の際には意識的に血管内の疣腫を検索しにいくことが重要である.
小児期を無症状で経過し,成人期に心不全や不整脈(心房細動など)を契機に診断される場合も少なくない.単なるHFpEF(heart failure with preserved ejection fraction)や原因不明のPHとして診療されている症例にPDAが隠れていることもあり,介入可能なPDAを診断する臨床的重要性は高い.
動脈管そのものの描出は難しいが,動脈管は左肺動脈近位部に開口しており,カラードプラ法で肺動脈内の連続性シャント血流を検出することができる.傍胸骨左縁短軸像で肺動脈分岐部を描出(図5A)し,左肺動脈を中心とした断面に調整すると(図5B),開口部からのシャント血流を描出しやすい.シャント血流の血流速度波形は全心周期で連続して描出され,収縮期でより高速である(図5C).PDAでは,胸骨左縁の上位(第1~2)肋間で連続性雑音が聴取され,聴診は診断の助けとなる.
高齢での初発心不全時に診断されたPDA. Aでは肺動脈の拡張と,肺動脈内の異常血流を検出できる.Bのように少し左肺動脈側を中心に描出を調整すると,連続性のシャント血流が検出され,PDAの診断に至る.連続波ドプラ法(C)で,収縮期でより高速の連続性の血流を検出できる.この症例では同時に肺動脈弁逆流の波形も描出されている.MPA: main pulmonary artery, RtPA: light pulmonary artery, LtPA: left pulmonary artery
左心容量負荷により左心不全をきたす.左房左室,時に上行大動脈が拡張し,左室収縮はややhyperkineticとなる.二次的にMRやARを合併し弁機能障害が前面にでていると,それだけで心腔拡大の原因となり得るため,元凶であるPDAを見逃しやすい.EFが保たれ,左房左室の拡大を伴う症例では,PDAの有無を確認すべく,カラードプラ法を併用した肺動脈の観察も忘れずに行う.これにより60~70代のHFpEFの複数例を,PDAの初診断に導くことができた(図5).
大きな動脈管では直接的な肺血管傷害も相まってPHの進行は早く高度である.進行に伴い,肺動脈拡張と右室圧負荷による右室拡大および右室壁肥厚を呈する.肺動脈圧が高度に上昇し,右左シャントもしくは両方向性シャントになると,PDAで特徴的な所見がマスクされ,さらに診断が難しくなる.すなわち,連続性雑音は聴取されなくなり,拡張期雑音が目立つようになる.また,肺動脈内のシャント血流も連続性ではなくなり,検出しにくい.右左シャントの検出は,胸骨上窩アプローチにより,カラードプラ法やマイクロバブルテスト(図6)で下行大動脈へのシャント血流を検出することが有用である.PDAのEisenmenger化は,上肢の酸素飽和度は低下せず,下肢のみ低下するdifferential cyanosisを呈する.下肢のチアノーゼやばち指の確認も重要である15).
単純性のシャント性心疾患のエッセンスのみを概説した.いずれも奥深い疾患であり,詳細に目を向ければさらに理解が深まるが,まずは方針決定に必要な最低限の情報を熟知し,心エコー図検査で的確な所見をとらえることが重要である.自信をもってACHD診療をできる循環器内科医はまだ少ない.心エコー図レポートには主治医を動かす力と責任がある.検者の皆様には,先を見据えた心エコー図検査の実施とレポート作成を心掛け,これからのACHD診療に貢献いただきたい.
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14) 2022年改訂版 先天性心疾患術後遠隔期の管理・侵襲的治療に関するガイドライン.https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2022/03/JCS2022_Ohuchi_Kawada.pdf(2024年8月9日閲覧)
15) 小板橋俊美,猪又 孝元,和泉 徹.ほか.妊娠期に初めて診断された無症状の重症肺高血圧の1例.日本心臓病学会誌2008; 1(2): 116–118.
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